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第29回もしも会議室で隣にロボットがいたら
3章 身体を伴う知性

キーワード

  • #ネットワーク
  • #AI活用
  • #Plus one

こんにちは、いつも当コラムをご覧いただき、ありがとうございます。
シリーズの最終回(3章)は、少し想像の世界に踏み込み、「会議室とロボット」を考えてみます。

ところでロボットの語源の由来をご存知でしょうか?語原は「robota(ロボータ)」です。1920年にカレル・チャペックの戯曲『R.U.R.』で人造人間を指す言葉として造語され、英語の「Labour(労働)」と同様、機械が人間の代わりに働くという意味が込められています。Labour はアメリカ英語ではuがとれてLaborですね。

仕事は余るのに、人が足りない

最近「2040年の就業構造のパラドックス」というのを耳にされたことはありませんか?
経済産業省が2026年1月に公表した新推計(2040年の就業構造推計)などで注目されている現象です。
AIやロボットの導入により、職種間のミスマッチは2040年には以下のような極端な二極化が起きると予測されています。

@「余る」仕事: 事務職(約440万人の余剰)
 AIエージェントや定型業務の自動化により、これまで人間が行ってきたオフィスワークが大幅に削減されます。

A「足りない」仕事: 現場職+専門職(計600万人以上の不足)
 -現場人材(約260万人不足): 建設・介護・製造など、物理的な身体性を伴う現場で人が足りなくなります。
 -AI・ロボット利活用人財(約340万人不足):ロボットをメンテナンスしたり、AIを現場に実装・運用したりする高度な専門人材が必要になります。

また、職種間のミスマッチだけではなく、学歴でも理系が不足して文系が余剰となるミスマッチも推計には書かれています。

工場機械から、社会インフラへ

では、なぜこれがパラドックスと呼ばれるのでしょうか。
人口が減っているのに「事務職が440万人も余る」一方で、社会を維持するための「現場や技術者」が不足する点にあります。つまり、「仕事がない人」と「人手が足りない現場」が同時に大量発生するという構造です。
このパラドックスを解消する鍵は、やはり「ロボット」の進化にあります。
経済的な観点でも、人手不足が深刻な建設や物流、介護の現場に、支援するための協働するロボットをどれだけ「安価に」「汎用的に」投入できるかが課題です。2040年に向けて、ロボットは単なる「工場機械」から、私たちの「不足した手足を補う社会インフラ」へと変貌を求められていると言えると思います。

会議室に座る「分身」

電話会議は以前からありましたが、新型コロナ頃からリモート会議が広く普及しました。
リアルタイムで場所を問わずに会議ができるだけでなく、メッセージやテレビ画像などのユニファイドコミュニケーションとなりました。このテレプレゼンス、最も「会議室の隣」らしいロボットの活用法かもしれません。

AIと融合したロボットの面白いところは、隣に座っている「個体」でありながら、同時にクラウドを通じて「全知」である点です。会議で誰かが「昨日の市場データは?」と言った瞬間、隣のロボットがクラウドのデータバンクとつながり、手元のタブレット(あるいは空間投影)にパッと資料を出す。
検索という「作業」を介さず、思考のスピードで物理的な提示が行われる心地よさが魅力です。あるいはスタートレックに出てきたデータ少佐*1のように必要以上のことを説明して「もういいデータ」と言われてしまうでしょうか。

また、ロボットならば分身(アバター)の切り替えもできるかもしれません。
さっきまで自動応答モードだったロボットの目がふっと色を変え、「あ、お疲れ様です。今から出張中の私が遠隔操作しますね」と、別の場所にいる仲間の声と仕草に切り替わる。まさに「憑依」的なコミュニケーションです。
これは現場にいる他のロボット達の情報を会議室の参加者とリモートで共有することにも応用できます。憑依したロボット自身も「現場(倉庫や工事拠点)」とつながるリモート操作の役割も兼ねることもできるかもしれません。
「多重存在」というロボットの新しい価値を想像しています。

*1
データ少佐はSFテレビドラマ『スタートレック』シリーズに登場する登場人物の一人で、架空の人型人工生命体(アンドロイド)
身体があるから、伝わること

「空気」や「なごみ」の正体は、実は言葉以外の小さな動きから生まれるのかもしれません。
「身体的」な非言語コミュニケーションといいますでしょうか。 音声情報だけではわからない画像解析も含んだマルチモーダルなAIの基盤モデルが実現させてくれると思います。
人の話を聞きながら、わずかに「ほうほう」と頷いたり、驚いた時に少しだけ背筋が伸びたり。

この「0.数秒の物理的な反応」があるだけで、人間は「このロボットは私の話を理解している」と本能的に感じ、孤独感が薄れます。例えば、ロボットが資料をじっと見つめれば、周囲の人も自然と同じ場所を見る。画面共有よりも強力な「場の一体感」を、首の角度や視線という「身体」で作ることができます。また会議が煮詰まった時に、ロボットが「少し肩の力を抜きませんか」と、ぎこちない動きで窓を開ける。その「一生懸命に動く機械」が、張り詰めた空気の場に人間味(ロボット味?)を連れ戻してくれるかもしれません。

終わりの方になってしまいましたが、下記のブログ記事をご紹介いたします。

■今回のピックアップ・ブログ

「・・・、人は必ず実現できる。」素敵な言葉ですよね。

最後に

言葉は、削ることができます。情報は、拾い直すことができます。
けれども、そこに生まれる「空気」や「なごみ」は、身体を通してしか伝わらないものだと思います。
うなずきや視線、わずかな間に身体を通して交わされる非言語のやり取りが、その場の温度をつくります。
人型ロボットが隣に座る未来は、AIが人間に近づく話ではなく、人間がもう一度、人間らしくいられる場を取り戻す話になるのかもしれません。そんな未来の会議室を思い浮かべながら、このシリーズを終えたいと思います。

2026年6月
株式会社 日立情報通信エンジニアリング
経営戦略本部 ブランド・コミュニケーション部
阿部 哲也

※編集・執筆当時の記事のため、現在の情報と異なる場合があります。編集・執筆の時期については、記事末尾をご覧ください。