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Wi-Fi環境における安定した音声通話を実現する
無線エリア設計へのシミュレーター活用

ネットワーキング事業部 マネージドネットワーク本部 岡本 学

キーワード

  • #Wi-Fi
  • #通信
  • #ネットワーク
  • #ローカル5G
日立情報通信エンジニアリング ネットワーキング事業部 マネージドネットワーク本部 岡本です。次世代自営無線システムを2020年より担当しています。それまではFTTH(Fiber To The Home)という光アクセスシステムなどを担当してきました。現在は、お客さまの敷地までのラストワンマイルからさらにその先のお客さま敷地内の無線ネットワークの提供が担当業務です。
以前のblogで、「自営無線システムとは何か? またその中でも特にローカル5G」についてお話ししました(blog「ローカル5Gをはじめとする自営無線システム」)が、今回は、自営無線システムのエリア化の手法についてお話しします。

無線アクセスポイント配置シミュレーター

上記blogに記載のとおり、ローカル5Gは無線免許の取得が必要であり、そのためにはローカル5G基地局の設置場所および無線エリア(電波が届く範囲)を明確にする必要があります。そのため、当社ではアクセスポイント配置シミュレーターを開発しました。
シミュレーターは、平面図上に基地局を配置し無線方式と基地局の電波出力を入れることで、図面上の壁による電波の減衰を考慮し、電波がどこまで届くかをシミュレーションすることが可能であり、ローカル5G無線免許取得に利用できます。またこのシミュレーターは無線方式としてローカル5Gのほか、Wi-Fiをサポートしており、Wi-Fiのエリア設計の際にも適用しています。

Wi-Fiで音声通信を行うこと

当社は、構内交換機(PBX)とPHS携帯端末をさまざまなお客さまへ内線通話用途で提供してきましたが、これらのシステムは『導入から長期間が経過し装置更新の必要性が増加している』一方で『PHSは公衆サービスが終了し、装置(端末やアンテナ)の入手が困難になってきていること』から、システム更新をどのように実現するかが一つの課題となっています。
お客さまによっては長年使い慣れたPHSを使い続けたいという希望も多いため、当社はPHS機器の継続提供も行っております(blog「スマートフォンの時代にPHSを発売すること」)が、システム更新を機に1台の端末で通話だけではなくさまざまな情報を扱うことのできるスマートフォンを活用したいというお客さまが増加しています。
そして従来よりPHSをお使いのお客さまの場合、緊急事態発生時にも継続的に通話が可能な自営無線ネットワークに拘りをもたれていることが多いため、FMCなどの公衆ネットワークを利用するサービスではなく、Wi-Fiエリアでスマートフォンを利用した音声通信を導入するケースが多くなってきています。
音声通信はリアルタイム性の要求が高く、また通信断に敏感(通話断やノイズ)であるという特長があり、安定した音声通信実現のためにはしっかりとしたエリアの設計が必要となります。ここで登場するのが前述したアクセスポイント配置シミュレーターです。
従来は平面図上にコンパスで円を描きエリア設計を行ってきました(図1参照)が、シミュレーター活用により建物の壁の減衰を考慮した設計が可能となります。従来の設計手法によるアクセスポイント配置(図1)で壁を考慮すると図2のような結果となり、Wi-Fiエリア外(赤枠の外側)となる場所が多く存在することがわかります。そのため、壁を考慮した配置設計(図3参照)が必要となります。
従来手法と比べてアクセスポイントの台数は増加しますが、シミュレーションを実施することで、アクセスポイントの設置前/設置後に行う現地電波調査に基づくアクセスポイントの追加設置数削減および運用開始後の音声通信品質の向上につながります。

図1. 壁を考慮しない場合のアクセスポイント配置(16台)

図1. 壁を考慮しない場合のアクセスポイント配置(16台)


図2. 図1の配置で壁を考慮した際のエリア表示(矢印部がWi-Fiエリア外)

図2. 図1の配置で壁を考慮した際のエリア表示(矢印部がWi-Fiエリア外)


図3. 壁を考慮した場合のアクセスポイント配置(26台)

図3. 壁を考慮した場合のアクセスポイント配置(26台)

適用実績

シミュレーションはお客さまより入手した平面図をもとに壁の位置、壁の材質を想定し実施します。そのため現地調査が重要となります。例えば実際に壁の材質が石膏ボードではなく、コンクリートだった場合、電波の減衰量が大きく異なることからアクセスポイント追加が必要となる可能性があります。現地調査結果をフィードバックして改めてシミュレーションを実施したところ、AP設置後には想定通りの無線エリアが構築できたことおよび通話確認においても問題無いことを確認できました。
今後は当社がご提供するWi-Fiシステム設計に、本シミュレーションの全面適用をすすめ、お客さまがより安心して音声通話をご利用いただけるシステムを、短期間で確実に提供できるようにして参ります。

2023年11月
株式会社 日立情報通信エンジニアリング
ネットワーキング事業部 マネージドネットワーク本部 岡本 学