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Hitachi

より良いマニュアル作成に向けて
〜ChatGPTの可能性を検証する〜

エンジニアリング事業部 プラットフォーム技術開発本部 杉野 昇史/加藤 豊

キーワード

  • #エンジニアリング
  • #ChatGPT
  • #プログラミング
  • #人工知能
  • #AI
  • #ドキュメント
エンジニアリング事業部プラットフォーム技術開発本部の杉野と加藤です。
私たちはエンジニアリング事業部に所属していますが、少し違った業務をしています。主な業務は、日立ストレージ製品のユーザーや保守作業者向けマニュアルの作成です。その歴史は20年以上になります。
マニュアルを提供する目的は、製品の詳細や使い方を正確かつ分かりやすく伝えることです。ユーザーエクスペリエンス向上にも寄与します。
マニュアル作成には主に次のようなスキルが必要です。
●コミュニケーション:複雑な情報を分かりやすく伝える
●テクニカルライティング:正確で明解な文章を作成する
●ユーザーエクスペリエンス理解:読者のニーズに合わせた情報提供
●専門知識:システムや製品に関する深い理解
●視覚的コミュニケーション:図やグラフを用いた視覚的説明
●編集と校正:文章の整合性、誤字脱字や文法のミスをチェック
私たちはこれまで、高い品質と信頼性を持ったマニュアルを提供してきた自負があります。しかし、テクノロジーとビジネス環境が絶えず進化しスピードアップする中で、より効率的で革新的な方法を模索する必要が出てきました。
そこで、生成AIの一つであるChatGPTを使った文書作成に注目し、その可能性を試すために検証を行いました。

検証内容

検証の目的は、生成AIのアウトプットがマニュアルの執筆にどれだけ役立つかの確認です。
そこで、検証内容は「インターネット上の情報から、マニュアルに記載している内容と同等の文章を生成できるか」としました。
また、検証の対象は「日立ストレージ製品のThin ImageとShadowImageの違い」としました。
日立ストレージシステムが提供しているプログラムプロダクトに、Thin ImageとShadowImageというものがあります。
どちらもデータを複製する機能ですが、実現方法と使い方に違いがあります。
また、Thin ImageとShadowImageの情報やマニュアルはインターネットに公開されているため、ChatGPTが学習済みと想定します。(*1)
*1
ChatGPTのエンジンはGPT-3.5を使用しました。2021年9月までのインターネット情報を使用して学習しています。

Thin ImageとShadowImageの違いは「Thin Imageユーザガイド」に次のとおり記載されています。
この表をChatGPTで生成できるか、試してみました。


表1. Thin ImageとShadowImageの説明比較@(「Thin Imageユーザガイド」から抜粋)

出典:Thin Image ユーザガイド(4046-1J-U13-B0_SVOSRF96)
https://itpfdoc.hitachi.co.jp/manuals/4046/40461JU13_SVOSRF96/40461JU13.pdf

まず始めに以下のメッセージをインプットしました。

“日立ストレージシステムが提供するThin ImageとShadowImageの違いを教えてください。”

ChatGPTのアウトプットは、Thin ImageとShadowImageそれぞれの特長を並べてくれました。
でも、比較対象がバラバラなのでよく分かりませんでした。
そこで、インプットにマニュアルの項目を観点として加えてみました。

“日立ストレージシステムが提供するThin ImageとShadowImageの違いを、以下を観点に教えてください。
・複製の作りやすさ
・複製の個数
・複製の容量効率
・複製の運用
・プライマリボリュームの物理障害
・セカンダリボリュームまたはプールの物理障害”

すると、項目ごとにそれぞれの特長を並べてくれました。比較しやすく、内容も分かりやすくなったと思います。
マニュアルは表形式ですので、そのフォーマットに合わせたいと思います。以下をインプットしました。

“ありがとう。内容を表にまとめて。”

最終的なアウトプットは次のとおりになりました。

表2. Thin ImageとShadowImageの説明比較A(ChatGPTのアウトプットより)


マニュアル記載の内容と比較すると、以下のとおりとなりました。
・意図どおり、または意図に近い部分
「複製の作りやすさ」、「複製の容量効率」はマニュアルの内容と近いです。「プライマリボリュームの物理障害」は用語が統一されていませんが、製品を理解していれば簡単にリライト(修正)できます。
・意図に合っていない部分
「複製の個数」、「複製の運用」、「セカンダリボリュームの物理障害」はマニュアルの記載内容と合っていません。
比較する対象を正しくインプットできなかったか、またはAIの学習不足が考えられます。

検証結果と課題

検証の結果、以下のポイントが明らかになりました。
・内容と目的を明確にしてインプットすると、想定に近いアウトプットが得られる
・想定したアウトプットを得るには、生成AIに入力する内容が重要
・表形式にするときは、そのフォーマットを意識して文章を変えてくれる
・従来言われているとおり、アウトプットの正確性はヒトの目で検証が必要
(アウトプットの一部に誤りがありました)
・AIの学習状況も要因と考えるが、想定した回答が得られない場合もある
(「複製の個数」については、質問を変えても回答は得られませんでした)
生成AIのアウトプットは、マニュアルを作成するときの一次資料として十分活用可能だと感じました。特に、文章を簡潔にまとめる作業には有効で、効率向上にも役立つでしょう。
しかし、生成AIの活用には次の課題があると考えます。


1. 自動生成とヒトの校閲の組み合わせ:
生成AIによる文章の自動生成だけでは、情報の正確性と文章の統一性に難があります。私たちマニュアルの専門家による校閲を組み合わせて、文章の正確性と統一性を確保する必要があります。
2. 専門性の向上:
より専門的な文書作成を行うには、生成AIの学習データに専門知識を追加し、特定の領域に特化したモデルを構築することが必要です。ただし、情報の正確性を確保するためには、専門知識を正しく理解する専門家の関与が不可欠です。
3. 信頼性とイメージ:
提供するマニュアルには信頼性が必要です。企業イメージにも影響します。マニュアルの専門家の関与が、高品質なマニュアル作成に欠かせません。


生成AIを活用したマニュアル作成は、今までと変わらず私たちマニュアルの専門家が適切に関与することが重要です。

まとめ

生成AIの登場に代表されるように、テクノロジーとビジネス環境は絶えず進化・変化していきます。私たちは新しい技術を活用しながら、今後もより高品質なマニュアルを、より効率的に作成できるよう取り組んでいきます。

※ご注意
この記事にあるThin ImageとShadowImageの特長や違いについて、その内容を保証するものではありません。

2023年10月
株式会社 日立情報通信エンジニアリング
エンジニアリング事業部 プラットフォーム技術開発本部 杉野 昇史/加藤 豊