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CTOの松並です。
当社は、エンジニアリング事業において、@通信、A画像処理、BIoT、Cプラットフォーム、の4つの技術領域に注力しています。 当社は、このうち、A画像処理技術を強みとして、ヘルスケア業界向けの受託エンジニアリング事業に取り組んでいます。画像処理技術とは、ハードウェア設計、ソフトウェア設計、装置設計を統合したシステム技術であり、その総合力を強みに事業展開を行っています。
このようなシステム技術の総合力については別ブログでお伝えしていきたいと思いますが、本日は特に、画像処理向けのハードウェア設計技術にフォーカスを当て、なぜ当社がこの技術で強みを発揮して、ヘルスケア業界に貢献できているのか、この領域で活躍する3名のエンジニアの方々に語ってもらいながらそのワケを探ってみたいと思います。
松並:エンジニアリング事業部の山田さん、今城さん、柏原さん、今日はよろしくお願いします。さて、皆さんはヘルスケア業界向けの受託エンジニアリング事業に取り組んでいますが、どのような分野で活躍されているのですか?
山田:ヘルスケア業界はとても活況を呈しており、医療画像診断機器向けの設計エンジニアリングのお引き合いやご依頼を受けて取り組んでいます。ご依頼に対しては、プロジェクトごとに設計部隊を分け、情報秘匿の管理により独立性を担保して対応しています。当社の得意とする領域の一つとして、ハードウェア設計があり、高速画像処理や、リアルタイム処理などで、当社の設計力をご活用いただいている状況です。
松並:ヘルスケア業界は日立の進める社会イノベーション事業の一つとして力を入れている領域であり、とても期待しています。本日は、なぜ当社がヘルスケア業界で力を発揮できるエンジニアリング会社になったのか、その背景を明かしていきたいと思います。よろしくお願いします。
対談の様子
松並:それでは、まず、ルーツを探ってみたいと思います。ずいぶん以前からヘルスケア事業には参画してきたのですか?
山田:いえ、そんなことはないのです。ここ7〜8年くらい前からの比較的最近のことになります。しかし、その礎となる技術力や設計力となると、ずいぶん昔の日立製作所 旧神奈川工場時代の汎用コンピューター向けのハードウェア設計まで遡ることになります。
松並:具体的にはどのような設計を行っていたのですか?
山田:当時、汎用コンピューターは最前線の情報機器でしたから、そのハードウェアは全て自身で設計開発していました。信頼性を確保した方式/論理、汎用コンピューター専用のLSIデバイス、EDA(Electronic Design Automation)と呼ぶ設計ツールもすべて日立内で自製していました。それぞれが他の要素をよく理解して最大の性能が出せる様に最適化し設計していました。生産性向上のためHDL(Hardware Description Language)もいち早く取り入れて、高速・大規模なLSI設計に適用して技術を培ってきました。
松並:ここで培われてきた技術的な凄みは何でしょう?その後にもつながっている技術力について教えてください。
山田:ひとつめは、大人数による大規模ハードウェア設計の技術があげられます。大規模な汎用コンピューター、高速なHPC(ハイ・パフォーマンス・コンピューティング)の開発などでは、1LSI開発に50人〜100人もの設計者が共同で取り組むため、仕様書などのドキュメンテーションや、プロジェクト管理など、大規模回路設計の素養や基礎力が鍛えられました。
今城:そして、タイミング設計に代表される高速処理技術です。自製したEDAツールによって、高速処理に寄与する緻密なタイミング設計に磨きをかけたことです。
柏原:さらには、LSIの検証技術です。これも自製EDAツールの開発により実現したものですが、それまでは実機を使った検証が主流だったのに対して、日立はシステムレベルでのシミュレーション技術に相当の力を注ぎ高信頼化技術を確立しました。
松並:なるほど。大規模・高速処理・高信頼というハードウェア設計の礎がここで確立したのがよくわかりました。
松並:しかし、ここまでの話では、なぜ当社が画像処理技術を強みに活躍できるようになったかは分かりませんね。どのような転機があったのでしょう?
山田:汎用コンピューターの開発が一段落した際に、外販エンジニアリング事業に傾注していきました。それまでの開発で培ってきた技術を元に、複数のFPGAで大規模ASICのエミュレーションを行うプロトタイプツール「Logic Bench」を商品化したりしました。
今城:今では一般的ではありますが、当時COT(Customer Owned Tooling)と呼ばれた、LSIの設計から製造まで一括して受託するエンジニアリング事業にも取り組んでいました。
松並:汎用コンピューターの開発で培ったハードウェア設計技術をエンジニアリング事業として横展開することをめざしたのですね。このような設計技術にはどのような需要があったのですか?
山田:2010年前後のことですが、デジタル映像機器に対する需要が活況になりました。デジタルテレビの高精細化が進み、4K-8Kの開発や一眼レフカメラのデジタル化など高画素化や高級化が進んだ時代でした。
松並:この潮流に乗って、Logic BenchやCOTが飛ぶように売れたのですね!
山田:いえ、あまり売れませんでした(苦笑)。しかし、これらがキッカケとなって、当社の大規模LSI設計技術や高速処理技術を広く知っていただくことができました。そしてちょうどそのころ画像処理の高速化技術を必要とされていたデジタル映像機器メーカー様から受託エンジニアリングの受注をいただくことができたのです。
松並:大規模・高速LSI技術が画像処理にフィットすることが分かったのですね!しかし汎用コンピューターとデジタル画像機器では ずいぶん応用が違いますね。どうやって転身を図れたのか、具体的なエピソードを教えてもらえませんか?
柏原:一例をあげると、「H.264/MPEG4 AVC」のIP(Intellectual Property)コアの開発・外販に取り組みました。画像処理の論理回路部品の製品化を図ったのです。しかし、まぁ、これが苦労の連続でした。
今城:この開発にはたいへん難儀して、最終的には60人くらいが総がかりになって、なんとか製品化を実現しました。苦労はしましたが、この開発を通して、画像処理技術を確立するとともに、デジタル画像処理に関する多くのノウハウも学び、この領域に取り組む自信をつけました。
松並:汎用コンピューター開発で培ったLSI設計技術を画像処理技術として磨きをかけて花開かせたのですね。
松並:デジタル映像機器が一段落したあとに受託エンジニアリングに対するニーズが高まったマーケットはどこだったのでしょうか?
山田:そのひとつがヘルスケア業界でした。ご承知のように、ヘルスケア業界では医療画像の活用が進んでいます。内視鏡、CT、MRI、エコーなどの医療画像機器の「多様化」と、高精細画像、3D画像、等の画像応用の「高度化」に伴い、高いレベルの画像処理技術が必要になってきています。当社は、デジタル映像機器のビジネスで培ってきた画像処理技術を生かし、FPGA/LSI/基板といったハードウェア設計開発ノウハウに、さらにはソフトウェア技術も加えて、これらを総動員して対応してきました。
今城:また、当然ながら、医療機器には極めて高い信頼性が求められます。ここにミッションクリティカルな分野で開発を行ってきた経験やノウハウに対しても期待がありました。
松並:なるほど、ヘルスケア業界に参入できた背景や理由がよくわかりました。しかし、当社だけでなく多くのエンジニアリング会社が需要の活況なこの業界に挑んでいると思いますが、なぜ当社はここで強みを発揮できているのでしょうか?
山田:ひとつには、医療画像機器の開発には、上述のとおり高度な画像処理が必要ですが、アルゴリズムなど抽象度の高い設計から大規模なFPGAの回路設計に落とし込むMBD(Model Based Development:モデルベース開発)の適用を早くから進めてきたことが差別化のひとつの要因として挙げられます。
今城:また、多様な医療機器の画像処理のニーズに応えるため、デジタル映像機器開発の時代に蓄積してきた画像処理の回路技術、設計ノウハウ、開発環境、検証環境を共通の設計基盤として整備してあり、多彩なニーズに効率良く応えてFPGA開発ができることも要因だと思います。
柏原:そして、ひとたび我々と開発を共にしていただくと、日立のミッションクリティカル製品の開発で培った高信頼化に対する経験・ノウハウを実感していただけ、高い評価につながっています。
松並:ますますお客さまのご期待に応えられるといいですね。最後に、今後の展望について聞かせてください。
柏原:医療画像機器には、継続的に多様化・高度化した画像処理へのニーズが高まると予想しています。当社に対するご期待はますます高くなると思いますので、今までお話した画像処理技術、高信頼性技術を多くのお客さま企業へご提供していきたいと思います。
今城:さらに、機能安全に基づいたセーフティリスクマネジメントや、サイバーセキュリティ対応など、一段高いシステム設計力をご提供していきたいと思います。
松並:大規模・高速処理・高信頼といった画像処理の「ハードウェア技術」に加え、ソフトウェア、機能安全、セキュリティなどの「システム技術」、さらには、当社が長年かけて培ってきた開発技法、ドキュメント管理、品質管理などの「共通設計基盤」の強みを総合して、これまで以上にお客さまへのお役立ちを通して、ヘルスケア業界で社会に貢献していってもらいたいと思います。今日はありがとうございました。
図.ヘルスケア業界への画像処理技術の適用
2022年11月
株式会社 日立情報通信エンジニアリング
CTO 松並 直人
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