キーワード
- #ネットワーク
- #セキュリティ
- #ゼロトラスト
- #SASE
- #通信
こちらの写真はHitachi IT Museumの通信ネットワークコーナーに展示されている日立製の電話交換機です。日立製作所の情報通信事業の源流である戸塚工場設立当時(1937年)より開発・製造されたものです。
写真 電話交換機
Hitachi IT Museum OMORIにて展示(一般公開は行っておりません。)
交換機を最初に発明したのは誰かについては諸説あるのですが、自動交換機を最初に作った人については次のような逸話があります。アメリカのとある片田舎の町に電話サービスが初めて導入されました。当時の交換機は人が手動でケーブルを接続するという初期のタイプだったので操作する人にはいやおうなしに通話の内容が聞こえてしまいます。そこでその情報が第3者に流出して特定の会社が利益を得てしまうというトラブルが発生しました。その時に被害を受けた会社のある人は何を考えたのか人手を必要としない自動交換機を一人で作りあげてしまったのだそうです。
それが発端かどうかはわかりませんが、その後世界的に自動交換機の開発と導入が始まりました。写真に示した交換機もそんな時代に日立が開発・製造したクロスバー交換機です。クロスバー・スイッチという機械式の小型スイッチを多数組み合わせて大きなスイッチを構成します。電話機からダイヤル操作に対応した電気パルス信号を受け取って数え上げ、それをもとにスイッチを自動で制御して相手先との回線をつなぎます。すべてハードウェアだけで動作します。つなぐ途中でカチャカチャと音を立てるのが特長です。実はこの交換機は製造から70年近くたった今でもちゃんと動きます!これを当時設計した人たちはどんな心持ちだったのでしょうか。子供心をもくすぐるようなワクワク感に満ちた製品だと思います。
しかし、このクロスバー交換機には収容数加入者の数に比例して装置が大型化してしまうという難点がありました。写真で示した装置でも高々数百人分しか収容できません。1970年代後半になると半導体技術が進歩して機械式のクロスバー・スイッチは半導体メモリーに置き換えられ、ソフトウェアによって通話回線が制御されるデジタル式の電子交換機の時代に入りました。これにより交換機は画期的に小型化、経済化が図られ世界的に導入が進みました。当社の企業向けIP-PBX製品であるNETTOWER CX-01においても本技術を使って従来からの電話機能を実現しています。
そして1990年代になると、交換機の方向性を決定づける大きな技術革新が登場します。それはインターネットとパケット交換です。パケット交換は電話音声だけでなく、画像データ、ファイルデータなどさまざまなデータを細切れのパケットに分割してすべて一括に取り扱うことを可能として効率よく転送する技術です。実は技術的には歴史は古いのですがハードウェアでの高速処理が可能となってこの時期に再度クローズアップされました。電話番号の代わりにIPアドレスというインターネットの世界で定められた宛先情報に向かってデータは自在に転送されていきます。また収容性にも優れており、装置一台で数万人を超える加入者を収容することが可能です。ここに登場した製品がルーター、スイッチであり、現在、当社の企業基幹ネットワーキングの基盤となる製品群です。
以上の交換技術の歴史をセキュリティの観点で見てみます。
まず、アメリカの初期に手動交換機で発生した情報漏洩の問題は現代でいうセキュリティインシデントに相当します。その対策として人手を必要としない自動交換機が考案されました。クロスバー交換機においては通話中の二人の間には電話線が直接結ばれ、それは他の誰とも接点を持ちません。そういう意味で鉄壁のセキュリティを有していたと言えます。その考え方と構成はデジタル式の電子交換機においても引き継がれました。
しかしインターネットとパケット交換技術の登場で事情は変わりました。ネットワークの柔軟性、利便性が格段に向上したことにより、あらゆる人々そして企業が世界レベルでつながり合えるネットワーク環境が生まれました。また、近年のリモートワーク、クラウド型情報システムの進展でネットワークを活用するシーンも複雑化の一途をたどっています。そこに新しい形のセキュリティリスクが登場してきたと言えます。そしてその攻撃の手段は年々、巧妙化・高度化しつつあることも確かです。
当社のエンジニアは本日ご説明したこの交換機の長い歴史において、クロスバー交換機を皮切りに、デジタル式電子交換機の開発・製品化、そして最近ではルーター・スイッチの日立製品化開発などに深くかかわってまいりました。そして現在はそれらを基盤とした企業基幹ネットワーキング事業を展開しております。そして今後も増大するセキュリティリスクに対して、ゼロトラスト/SASEソリューションを提供してまいります。交換技術の長い歴史に向き合い、その時代その時代に応じたネットワークを提供してきた我々にしかできないことがあるはず、そんな思いを胸に鋭意取り組んでいます。
2022年8月
株式会社 日立情報通信エンジニアリング
ネットワーキング事業部 シニアアドバイザ 森 隆
※編集・執筆当時の記事のため、現在の情報と異なる場合があります。編集・執筆の時期については、記事末尾をご覧ください。