1. はじめに
こんにちは!医療機器の開発に携わっている竹濱です。
今回は、医療分野において非常に重要な役割を果たしているDICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)について紹介していきます。
DICOMは、医療画像の標準化と情報管理を実現するための規格であり、放射線治療や診断において欠かせない存在です。
ここでは、DICOMの歴史、仕組み、そして未来について解説していきます。
2. DICOMの歴史
2-1. DICOMが無い世界
1980年代初頭、医療現場ではさまざまなメーカーから多種多様な医療機器が開発されていました。CTスキャナー、MRI、X線装置など、各機器はそれぞれ異なるフォーマットでデータを保存しており、互換性が欠如していました。このため、例えばCTスキャンで得られた画像を別のメーカーの放射線治療機器で使用することができず、医療従事者は手動でデータを変換する必要がありました。この手間は時間がかかり、エラーのリスクも高まりました。
さらに、患者の診療に関する情報が複数のシステムに分散していると、医療従事者が必要な情報を探すのに時間がかかり非効率でした。医療の質を向上させるためには、データの一元管理と標準化が不可欠でした。
2-2. DICOMの誕生
これらの課題を解決するために、1983年に米国放射線学会(ACR: American College of Radiology)と米国国家電気製造業者協会(NEMA: National Electrical Manufacturers Association)が共同でDICOM規格の策定に着手しました。DICOMは、異なるメーカーの機器間でのデータのやり取りを可能にするための標準的なプロトコルとファイルフォーマットを提供しました。これにより、医療画像の管理と共有が効率的に行えるようになり、医療現場でのデータの互換性が改善されました。医療従事者は必要な情報を迅速に取得できるようになり、患者に対する医療サービスの質が向上しました。

3. DICOMの仕組み
DICOMは、医療画像だけでなく、さまざまな関連情報を管理しています。具体的には以下のような情報が含まれます。
- 画像データ: CT、MRI、X線など、医療機器で取得された画像データがDICOMフォーマットで保存されます。これにより、異なる機器間での互換性が確保されます。
- メタデータ: 患者の名前、ID、撮影日時、撮影条件などのメタデータも含まれています。これにより、医療従事者は医療に必要な情報を一元的に管理できます。
- 治療計画: 放射線治療に関する詳細な計画情報も管理します。これには、放射線の照射範囲や線量、治療のスケジュールなどが含まれます。
- 治療結果: 治療の結果や進行状況も記録されており、医療従事者は過去の治療データを参照しながら、患者の治療方針を決定することができます。
このように、DICOMは医療現場における情報について、標準化と一元管理を実現することで、さまざまなメーカーの枠を超えて運用することが可能になり、医療従事者は効率的に情報にアクセスできるようになりました。現在では世界中の医療機関で広く利用されています。
さらに、DICOMは医療データの標準フォーマットを提供することで、病院間の連携を容易にしました。病院間の連携により、専門医の意見を治療に取り入れることができるようになりました。
例えば、地域の病院で受けた検査結果を、別の専門病院で簡単に共有できるため、患者はより適切な治療を受けられます。DICOMのおかげで、医療現場がより協力し合い、患者にとってのメリットが増えているのです。
4. DICOMが変える未来
DICOMの未来は、AI(人工知能)の進化とともに大きく変わる可能性があります。特に、医療分野では大量のDICOMデータが蓄積されており、これを活用することで医療の質をさらに向上させることが期待されています。
4-1. AIによる医療の改善
医療機関では、毎日多くのDICOMデータが生成されています。これらのデータをAIが解析することで、疾病の早期発見や予測が可能になります。
例えば、AIは過去のDICOMデータを学習し、特定の病気の兆候を自動で検出することができます。これにより、医師が見落とす可能性のある異常を早期に発見し、適切な治療を行うことができるのです。
さらに、DICOMには治療計画や治療結果が細かく記録されています。この情報をもとに、AIは患者ごとの最適な治療法を提案することが可能です。DICOMに記録された治療計画や結果を分析することで、治療の効果を評価し、次回の治療に向けた最適なアプローチを提案できます。
例えば、特定の患者に対して過去の治療法がどの程度効果的だったのかをAIが解析することで、その結果をもとに新たな治療計画を立てることができます。これにより、医療の質が向上し、患者に対するより効果的な治療を提供できるようになるのです。
4-2. DICOMの進化
DICOMはAIとの連携を見据えて、規格のアップデートを進めています。この取り組みによって、AIがDICOMデータをより効率的に活用できるようになり、医療の質が向上することが期待されています。
例えば、データを安全に取り扱うための匿名化技術や、AI連携に必要な付加情報の追加が検討されています。これらの技術的な更新が継続的に検討され、拡張された仕様が導入されることで、AIの学習がよりスムーズに行えるようになるでしょう。
5. まとめ
DICOMは、医療のデジタル化において欠かせない存在です。医療画像や患者情報を一元管理することで、異なる機器や医療機関間でのデータ共有を可能にし、医療の効率化と質の向上に貢献してきました。
さらに、AIとの統合は医療の未来を大きく変える可能性を秘めています。大量のDICOMデータを活用することで、AIは過去の治療結果に基づいた予測や診断支援を行い、医療従事者がより良い治療方針を決定するための強力なツールとなります。また、DICOMに記録された治療計画と結果は、患者ごとの特性に応じた個別化医療を実現するための重要な情報源となり、医療の質を向上させる鍵となるでしょう。
DICOMとAIの融合により、医療はますます進化し、患者に対するサービスの質が向上することが期待されています。私たちの未来において、DICOMの進化がどのように医療を変えていくのか、その進化に注目していきたいですね。
最後に、私たちは進化し続ける医療技術を製品開発を通して社会に還元し、皆さまの健康と医療の未来に少しでも貢献できるよう、全力で取り組んでいきたいと思います。ご一読ありがとうございました。
2025年8月
株式会社 日立情報通信エンジニアリング
エンジニアリング事業部 第3本部 第2部 竹濱 裕崇
※編集・執筆当時の記事のため、現在の情報と異なる場合があります。編集・執筆の時期については、記事末尾をご覧ください。