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今回は、医療系エンジニアリング事業の開発担当である、エンジニアリング事業部 画像技術開発本部の平光さん(ハードウェア)と鹿又さん(ソフトウェア)にお話を伺います。
――早速ですが、当社が携わる医療系エンジニアリング事業がどういったものなのか聞かせてください。
平光:まず一概に医療機器といっても人体へのリスクの大小によってレベル分けされていて、体温計や血圧計など一般家庭で使用される一般医療機器(クラスT)、MRIやX線など病院診断時に使用される管理医療機器(クラスU)、治療装置など病院治療時に使用される高度管理医療機器(クラスV,W)、といったものがあるんですよ。
現在ハードウェア開発で主に取り組んでいるのは、管理医療機器(クラスU)にあたる診断装置の製品開発です。
取り組むといっても、我々自身で診断装置を製造/販売しているわけではなく、お客さまが販売している診断装置内の一部のハードウェア開発を任されているということです。
鹿又:現在ソフトウェア開発では、高度管理医療機器(クラスV,W)にあたる治療装置の製品開発に取り組んでいます。
こちらもお客さまが作った治療装置制御の一部のソフトウェア開発を任されています。
――診断装置、治療装置といった高レベルの医療機器開発に携わっているのですね。
――通常のエンジニアリング開発と医療系エンジニアリング開発で違いなどはあるのでしょうか。
平光:医療系エンジニアリング開発といっても特殊なことをやっているわけではなく、他のエンジニアリングと大差はないと思うのですが、特に気を付けなければいけないのは、患者様の身体に負担が掛からないように安全性などに配慮した設計が必要だというところが大きく違うかと思います。
安全性という観点だと、感電や火傷、あるいは怪我をしないような配慮が必要かと思いますし、肌に触れる部分に関しては生体適合性という確認の観点で、物質自身が長期間皮膚に触れても問題がないかというような化学物質のチェックも必要になります。このような安全機構、安全な材質の選定ということを考慮しながら開発を行っています。
――情報通信機器とは異なり、患者様観点での配慮が必要なのですね。
――過去に情報通信系エンジニアリング(サーバー、ネットワーク、ストレージ)で培ってきた技術を生かせる部分はありましたか?
平光:サーバーやストレージにおいてデータ消失や稼働停止は大きな社会問題となりますよね。医療機器も同じで患者様の診断データが消失してしまうと再度診断が必要になってしまうので、X線であれば被爆量が増えてしまうことになって、患者様の身体や生命に関わる医療事故となってしまいます。
このような問題が起きないように、データ消失させない、稼働停止させない、といったサーバーやストレージの設計で培ってきた技術は、医療機器にも生かせる強みだと思います。
鹿又:ソフトウェアはネットワーク系で培った技術がベースとなっています。24時間365日安定した品質が必要で非常に高い信頼性が求められます。 医療系もわずかなミスで医療事故となってしまうため、やはり高い信頼性が求められます。ネットワーク系で培ってきた高信頼設計の経験が、現在の医療系開発にも生かされていると思います。
――ハードウェアもソフトウェアも信頼性設計の経験が生かされているのですね。
鹿又:そうですね。情報通信系を開発してきた技術、信頼性設計の経験は、とても高い水準にありますので、医療系に限らず他の開発になっても貢献することが可能だと思います。
平光:ベンチャー企業のように、少人数でパパッと作って一刻も早く製品を形にするという考え方とは違っていて、工程ごとに記録を残して、仕様に基づいてチェックしてといった日立文化という根本があって、さらにそこに情報通信系の技術があるというところですね。
――なるほど、日立の信頼性と情報通信系の高信頼設計の技術が合わさっているのは、当社の強みですね。
平光:MRI診断装置の開発の際の話ですが、MRIは身体の中にある水素原子に磁気でエネルギーを与え、それを開放した際に水素原子から放出される電波をアンテナで受信して画像処理するのですが、その水素原子から放出される電波というのがものすごく微弱なんです。そのため、受信アンテナのセンサー感度がものすごく良いのです。
MRI診断装置内の電子基板開発を行った際に、基板から放射される微弱な電波がMRI画像にノイズとして出てしまうということで、求められる放射ノイズレベルがサーバー/ストレージの頃に経験してたレベルとあまりに差がありました。サーバー/ストレージ開発では問題にならないような放射ノイズがMRI開発だと全然ダメというようなところがあって、機械が変われば求められるノイズ対策の考え方、設計などが大きく変わるということが関わってみて初めてわかったところです。
また、情報通信系の機器とは違い、検体診断装置など液体を扱う装置の開発では、水漏れや排水に関する部分や液体の粘度による影響など、電気以外のところにも気を付けなければならない部分があり、苦労しました。
培ってきた強みを生かせる部分もありますが、やはり医療系特有の設計思想など、ノウハウが必要ということがわかりました。
――やはり経験してみないとわからない部分があるということですね。ソフトウェアのほうはいかがでしょうか?
鹿又:治療装置の開発の際の話ですが、ハードウェアが同時開発であったり、1台の製造費が高いため試作できるのが1台だけだったりと、実機検証を行うための環境に苦労しました。実機での検証が一番確実ですが、少ない環境を順番に使用するため、今までと同じやり方では開発期間がのびてしまうのです。 そのため、実機動作を模擬したシミュレーター環境の構築に今まで以上に力をいれています。 特に実機動作を忠実に再現させることが重要で、シミュレーター環境の出来によって開発期間が左右されます。シミュレーターでは疑似が難しく、実際に実機を使用してみないとわからない部分もあります。そのような部分を除き、決められた開発期間内で、限られた実機評価環境をシェアし効率的に検証を行うために、シミュレーター環境で検証を行い、早い段階でバグを取り除くことが重要です。
――日立の設計文化、情報通信機器開発の経験が医療機器開発における高信頼性開発に生かされていることがよくわかりました。 また、患者様の身体や生命といった健康に関わる機器の開発ということで、社会的責任が高く、とてもやりがいのある事業であることがわかりました。 本日は短い時間でしたが、お話を聞かせていただきありがとうございました。
2023年2月
株式会社 日立情報通信エンジニアリング
エンジニアリング事業部 画像技術開発本部 第2設計部 部長 平光 哲生
エンジニアリング事業部 画像技術開発本部 第3設計部 部長 鹿又 信之
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