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IPベースの放送ネットワークの構築
〜ネットワーク同期技術動向〜

ネットワーキング事業部 ネットワーキング事業企画本部 シニアテクノロジスト 安岡 佳広

キーワード

  • #ネットワーク
  • #通信
ネットワーキング事業部の安岡と申します。私は入社以来20年以上を放送関連製品の開発、SEに携わってまいりました。現在はネットワーク事業企画本部にてシニアテクノロジストの立場から放送システムの知見を生かし、通信、ネットワーク事業の発展に向けた企画を担当しています。

ネットワーク(人やモノ、情報をつなげる仕組み)はさまざま

突然ですが、ネットワーク(network)は『網』を意味する英単語が語源で人、物、情報の共有を指します。ネットワークを辞書で検索すると放送網、通信網、鉄道網、道路、網状組織、コンピュータネットワークなどが説明されています。

今回はネットワークを超えたサービスの融合についての事例をお話しさせていただきます。
2009年に日本初の通信網(光海底ケーブルによるIP(Internet Protocol)伝送)を介した地デジのリアルタイム配信(沖縄本島から先島諸島)が計画され、このプロジェクトに当社も放送技術の知見をもとに参画させていただきました。

このプロジェクトにおいて私が感じた放送網と通信網の運用方法の違いは、『同期型』か『非同期型』か、といった概念でした。漠然としすぎていますので具体例をあげますと、放送網は『同期型』のネットワークです。放送波の配信から家庭のテレビまで集中制御されています。スケジュールに則った番組が視聴できますが、ユーザーに許されるのは番組の選択のみです。

次に通信網(IP網)は『非同期型』のネットワークです。インターネットを例にお話しします。ホームページ(URL)にアクセスしたら応答が戻ってきます。その応答時間にはばらつきがあり、保証はされていませんがフレキシブルな操作が可能です。両者において運用ポリシーは大きく異なります。

日常生活において、我々はさまざまなネットワーク(放送、通信、鉄道など)と無意識に関わりを持っています。異なるネットワークが融合するにはさまざまな壁があるのも事実ですが、それらが融合する時に新たなサービスの創出など商機が秘められています。

放送システムの概念をIPネットワークへ (ネットワークを超えたサービスの融合(放送・通信の融合))

最初に放送ネットワークが同期型システムとして確立されている具体例をお話しします。
皆さんはテレビでドラマや歌番組を視聴中に、人の口の動きと音がずれているという違和感はないはずです。

放送の世界では通常『リップシンクが合っている』と表現しますが、撮影された番組は映像と音声を別々に処理(デジタル化)し、デジタル化されたそれぞれのパケットは伝送路で揺らぐことなく、処理(デジタル化)時と同一のタイミングで家庭に届きます。このため、絵と音がずれることはありません。

少し余談ですが、インターネット上にはさまざまな動画配信サービスがありますが、これらはダウンロード型の映像配信サービスで再送制御などを可能とすることから、放送ではなく通信のネットワークに位置します。

地デジを非同期型の通信網を介して伝送する為に最初に検討したのは通信網に同期の概念を持ち込み、さらに、放送ネットワークで規定する精度まで通信網での揺らぎを抑えることでした。

非同期IP網に放送の同期型概念を持ち込むための技術解決策

下記の図を参照ください。沖縄本島の放送波をMPEG over IP伝送装置を介してIPパケットにパケタイズしIP網へ送出します。このパケットは非同期型の通信網内を通過する過程で揺らぎを持ちます。

このままでは先島諸島のテレビではリップシンクがずれ、放送としての品質が担保できません。そこで出入口のMPEG over IP伝送装置にGPS(Global Positional System)からの基準信号を直結し、基準時間をもとにIP網で発生した揺らぎを出口側のMPEG over IP伝送装置にて補正することにより、放送信号の通信網伝送技術を確立しました。放送波の非同期網通過の壁をクリアしています。

その他にも放送と通信の世界ではセキュリティやデータの誤り訂正などの考え方も異なります。この辺りの話については機会があれば別途お話しします。

参考情報:IP網における同期技術動向

最近では、IP網の時刻同期として、『TSN(Time Sensitive Networking)』とよばれるイーサネットの拡張規格があり、その中の『PTP(Precision Time Protocol)』ではマイクロ秒以下の精度のクロック同期を達成し、リアルタイムアプリケーション(先進運転支援システムなど)の分野での使用が検討されています。

本日はほんのさわりについてお話しさせていただきましたが、弊社には通信・ネットワークのプロフェッショナルが多数在籍しております。さまざまな場面でお客さまと問題解決にあたることができます。
今後とも、どうぞ、よろしくお願いいたします。

2022年9月
株式会社 日立情報通信エンジニアリング
ネットワーキング事業部 ネットワーキング事業企画本部 シニアテクノロジスト 安岡 佳広

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※編集・執筆当時の記事のため、現在の情報と異なる場合があります。編集・執筆の時期については、記事末尾をご覧ください。