はじめに
こんにちは。エンジニアリング事業部 第2本部 第2部の藤山です。私は、自動車の故障診断ソフトを開発しています。
実は私、自動車にはまったく興味がありませんでした。そんな私が今、自動車の診断ソフト開発に夢中になっている――。
今回は、私が自動車関連の開発業務に携わるきっかけと、この仕事の面白さについてお話しします。
きっかけは「通信」だった
学生時代、私はアンテナを使った通信技術の研究をしていました。目に見えない電波がどうやって遠くまで届くのか、その仕組みに興味があったからです。
当時の私は、自動車といえば「ただの移動手段」という認識でした。ところが、今の車にはGPSやレーダーなど、通信技術がふんだんに使われていることを知り、驚きました。
まさか自分の研究が、自動車の世界とつながっているなんて――。この「通信」技術との縁が、自動車関連の開発業務に携わるきっかけとなったのです。
自動車の故障診断とは?
「故障診断」と聞くと、自動車整備士がスパナやレンチを使ったり、エンジン音を聴いたりするような、アナログなイメージを持つかもしれません。ですが、現代の車は電子制御の塊です。アクセルやブレーキはもちろん、自動ブレーキや自動運転支援、排ガス制御、EV車のバッテリー制御まで、すべてがECU(電子制御ユニット)によって管理されています。
私たちが開発しているのは、車両からデータを取得して解析する「Off-Board Diagnostics(OBD)」と呼ばれるソフトです。これは、車両に接続した通信デバイスとPCソフトを使って、車の状態を診断する技術です。
たとえば、ECUにコマンドを送って簡易的なテストを行い、故障の予兆を早期に発見することも可能です。これにより、整備士が的確な判断を下せるようになります。

実車テストで感じた「現場の声」の重み
故障診断ソフトの開発では、ECUの仕様に基づいて制御コマンドの送信や応答処理を設計・実装します。私は設計から試験まで一貫して担当しており、実際に自動車メーカーに出向いて実車でのテストを行うこともあります。
現場では、メーカーの技術者と直接やり取りしながら、制御仕様に関する技術的な確認だけでなく、UI(ユーザーインターフェース)の使いやすさや操作性について意見をもらうこともあります。こうした技術者や整備士の “生の声”は、ソフトの完成度を大きく左右します。
「もっと直感的に操作できるように」「この表示、見づらいかも」――そんな一言が、製品の価値を大きく高めるヒントになりますし、私自身が面白さを感じるポイントでもあります。現場の意見を反映して期待に応えることができたときは、非常に達成感があります。
現在、自動車の故障診断技術は車検制度の一部としても制度化されており*1、車両の安全性と信頼性を支える重要な役割を担っています。
故障診断ソフトの品質が、整備士の判断精度や作業効率に直結することを考えると、私たちの開発業務は単なる技術提供に留まらず、交通安全や環境保全にも間接的に貢献していると言えます。
このような社会的意義のある業務に携われることに大きなやりがいを感じています。
今後の展望
今後、故障診断技術はさまざまな技術と連携し、より大きな価値を生み出していくと考えています。
クラウドとの連携
クラウドはインターネット経由でデータやサービスを利用する技術です。自動車から取得したデータをクラウドに集約し、AIやビッグデータ解析を活用することで高度な診断が可能となります。これにより、故障の予兆検知やメンテナンス時期の最適化などが期待されます。
OTA(Over the Air)との連携
OTAとは、無線通信経由でデータを送受信し、スマートフォンのように車両でもソフトウェアを遠隔で更新・修正する技術です。先に紹介したクラウドと連携することで、リモートでの故障診断や、ECUソフトウェアの更新・修正等を行うことが可能です。
これらの技術はすでに市場への導入が始まっており、今後さらに普及していくと予想されます。ただし、普及にはセキュリティや通信インフラの整備といった課題もあり、今後の技術革新が求められます。自動車の安全性・信頼性を支える診断技術は、クラウドやOTAとの連携によって、よりスマートで効率的な車両管理の基盤となっていきます。
おわりに
通信技術の研究から始まった私のキャリアは、今では自動車の故障診断という形で社会に貢献する道へと繋がっています。
「興味がなかった分野でも、飛び込んでみたら面白かった」
――そんな経験が、今の私の原動力です。
2025年9月
株式会社 日立情報通信エンジニアリング
エンジニアリング事業部 第2本部 第2部 藤山 大輝
※編集・執筆当時の記事のため、現在の情報と異なる場合があります。編集・執筆の時期については、記事末尾をご覧ください。