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IoTデータ活用の成功への道筋とは?

CTO 松並 直人
株式会社 日立情報通信エンジニアリング CTO  松並 直人

キーワード

  • #ネットワーキング
  • #エンジニアリング
  • #IoTエッジシステム
  • #DX
CTOの松並です。以前のコラムでは、ネットワーキングとエンジニアリングのシナジーこそ当社のユニークさであり、その一例として、IoTエッジシステムの構築についてお話しさせていただきました。
日立情報通信エンジニアリングのめざすネットワーキングとエンジニアリングのシナジーとは?
本日は、その具体的な取り組みとして、「IoTデータ活用の成功への道筋とは?」と題してコラムをお届けします。

製造業におけるIoTに対するニーズの変化

IoTを活用したDXをめざす動きが加速しています。IoT×産業ネットワーク市場はおよそ3,000億円規模に達し、今後の市場成長率も約8%と、継続した成長が予想されています。このようにIoTの導入は一般化し、現場での本格実装が進展していることが分かります。
産業別に見てみると特に製造業への適用のウェイトが大きく、大手企業を中心にIoTの導入が定着してきています。このような企業では、IoT導入当初はデータをどう取得するかなど、技術的な課題が中心でしたが、現在は実装フェーズとなり、ERPや生産管理などの既存システムとの接続や、現場や屋外などの環境特性に合わせた機器の選定や通信手段・電源の確保など、実装上の課題が表面化してきています。またIoTデータを活用する分析システムはメガクラウド上に構築されることも多いため、社内システムだけでなく社外システムとの接続も含む安全なハイブリッドネットワーク環境の整備も必要になってきています。
一方、中小・中堅製造業ではこれまでIoTの活用が進んでいませんでした。しかし、市場のニーズとして、サプライチェーン全体のIoT化が進展してきたことにより状況が変わりつつあります。サプライチェーンの川下や中流に位置づく中小・中堅製造業もサプライチェーンに参加するためにはIoT化が不可欠になってきたのです。このことが投資の動機となり、さらに補助金制度の活用やコロナ禍による現場省力化ニーズも追い風として、実証実験やトライアルが活発化してきています。
これらのことから、IoTの活用は第二幕に突入したと言っても過言ではありません。ここまで見てきたように、サプライチェーンにおける位置づけに応じた柔軟性の高いIoTシステムの構築が求められてきています。
では具体的には、その実現に際してどのような課題があるのでしょうか?製造現場におけるIoTデータの活用を例にとって、順を追って見ていきたいと思います。

課題1:長時間を要するPoC準備

IoTデータを活用した生産性向上や作業効率化の目的を達成するには、想定通りの価値が得られるか本番前にPoCを実施して検証することが重要です。しかし、多くの場合、その準備に時間がかかりすぎることが課題です。PoCを行うには、データが生成される現場でデータを取得、収集して、上位のアプリケーションにそのデータをつなげることが必要となりますが、いざPoCを実施するにあたり、どのようなセンサーやデバイスを使ってデータを取得、収集すればよいのかなど、決めるべきことが多くあるためです。また、既設の設備からデータを取得したくても、その通信プロトコルが独自・専用であることも多く、汎用GWが使えないこともあります。このようにPoCの具体化に際し、検討事項や確認項目が多岐にわたるため、準備が長時間になってしまうのです。

課題2:製造現場におけるセキュリティリスクの増大

先に述べた通り、製造業においては、複数の企業間でサプライチェーンを構築することが一般化しています。一方、組織的なセキュリティ攻撃者は、洗練された手法でサプライチェーンの弱点を狙ってきます。Just in Timeなどのサプライチェーン全体での生産効率を追求した緊密な連携を前提とした生産手法を逆手に取ったサプライチェーン攻撃という手法が近年行われるようになってきたのです。例えば川下の企業が攻撃により生産停止になるとサプライチェーン全体に影響が波及し最終製品も生産停止に追い込まれます。このことから、サプライチェーンに参画するためには一定のセキュリティレベルの確保が不可欠であると言えます。
データセンターやOA環境に設置されたIT機器に比べると、製造設備やそこに設置された拠点内の産業ネットワークに特有な事情に起因したセキュリティの課題があります。製造現場には多種多様な端末や機器が存在していて、その構成要素であるOSや通信プロトコルも多彩であることから、そのセキュリティ耐性のレベルも様々です。このような多様性のなかではセキュリティ対策としてできることが限られることが課題です。
また、一般に、製造現場の利用者はセキュリティ知識が十分でないことも課題です。ネットワーク機器を初期設定のまま使用してしまったり、セキュリティパッチが未適用だったり、危険な通信プロトコルのポートが開かれたままだったりします。このように、ユーザー・端末・ネットワークの全てにおいて信頼性上の不完全性が存在しているのです。

図1. サプライチェーンにおけるセキュリティリスク図1. サプライチェーンにおけるセキュリティリスク

課題3:IoTデータ活用を成功に導くノウハウ・人財の欠如

経営課題を現場IoTデータの活用により解決していく構想ができる人財やノウハウが不足していることも課題です。多くの製造業、特に中堅・中小企業では、DX構想を発案すると同時に、それを成功に導くためロードマップを策定したり、アクションプランを計画したりする人財が不足しがちです。

以上で述べてきたIoTデータ活用に際して表面化してきた課題に対して、次のような道筋に沿って検討を進めることが成功への近道になります。当社としてのご提案も併せてご説明して参ります。

成功への道筋1:迅速なPoCの実現

準備期間を極力短縮して迅速なPoCを実施するために、まず考えたいのは、パッケージングされたIoTシステムの選択です。よく使われる動作確認済のセンサーデバイス群や、デバイスを集約するためのIoT GW、そして機器認証やデータ収集・一次解析や上位システムへのインタフェースを備えたエッジプラットフォームをセットにしたIoTシステムの適用を検討することです。
これは当社の提供するIoTエッジ向けインテグレーションサービスの例ですが、センサー種などの諸条件が整えば、これまで準備から実行開始まで最低でも3か月かかったPoCがわずか1週間で開始できるようになります。
また、センサーに対する要件定義や活用するセンサーの選択、さらには特殊な通信プロトコルを使うデバイスの接続、既存製造設備へ外付けするカスタムセンサーデバイスの開発などの技術課題の解決に関しては、IoTシステム構築の経験が豊富で、かつ、開発力のあるIoTシステム会社をご活用ください。
当社でも、多数のセンサー販社様との連携した幅広い調達力・提案力を備えるのはもとより、特殊な通信プロトコルに対応するIoT GWのセミカスタム化や、要求に合致したカスタム品のセンサーデバイスの受託開発もお引き受け可能です。柔軟かつご要望に沿った対応が可能ですのでお気軽にご相談ください。

成功への道筋2:ゼロトラスト指向に基づくセキュリティ対策の導入

前述したとおり、セキュリティ面での「多様性」と「不完全性」にいかに対応するかが重要です。各種機器の不完全性を補完する一つの方針として、機器の状態の可視性を高めてより多くの情報を総合することでトラストを確保するという考えを採用します。また、多様性がありセキュリティ対策に制限がある産業機器を対象とした攻撃への対策としては、拠点内の産業ネットワーク側に「ゼロトラスト(=何も信頼しない前提からスタートする)」の考え方に基づくセキュリティ対策を導入することを考えます。トランザクション毎にトラストを都度確立した上でリソースへのアクセスを許可するという考え方です。まず、機器の信頼性のレベルに応じた最小権限によるアクセス制御を行うことにします。また、信頼性レベルに応じたネットワーク分割(セグメンテーション)を行います。万一、不審アクセスが発生した際にはそのふるまいを検知し、被疑機器を含むネットワークセグメントの分離を行うことで他の拠点内ネットワークおよび製造設備への被害の拡散を防止します。
このようなゼロトラストに対応した拠点内ネットワークのセキュリティ対策の導入に関しても当社のネットワークインテグレーションサービスをご活用いただけます。

成功への道筋3:豊富な実績に基づくコンサルテーションサービスの活用

一般に、DX人財を養成するには長期間が必要ですが、もはや時間的な猶予はあまり無いことでしょう。その場合には、DX構想に長け、ロードマップの策定やアクションプランの計画にも慣れ親しんだIoTシステム会社のコンサルテーションサービスを活用し、お客さま企業のDXご担当者様も一緒に参画しながら経験を蓄積していく方法をご検討ください。IoTシステム導入の計画化には、機器仕様の確認や、機器収容の方法から、センシングの周期・データサイズ・データ形式の仕様立案など、多くの考慮ポイントがあります。また、産業ネットワークやセキュリティに関する知見も必要です。
このあとの連載コラムで当社の数々の事例について紹介して参りますが、当社では、これら豊富な事例を通して培った経験知を体系化した「構築立案支援サービス」と呼ぶコンサルテーションサービスを提供しています。課題解決の一助としてご活用いただけますと幸いです。

図2. 当社IoTエッジ向けインテグレーションサービス提供範囲図2. 当社IoTエッジ向けインテグレーションサービス提供範囲


「IoTデータ活用の成功への道筋とは?」と題して、現在のIoTシステムの動向、システム導入に際する課題、その解決の道筋について解説させていただきました。当社では、これらの課題に対して、エンジニアリングとネットワーキングの両面から、IoTシステムの構築を取り纏めて提供する「IoTエッジ向けインテグレーションサービス」をご提供しています(図2)。このコラムに続く連載コラムとして、当社の提供サービスの詳細と、数々の事例についても順次ご紹介して参ります。ぜひご参照いただければと存じます。

株式会社 日立情報通信エンジニアリング
CTO 松並 直人